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SQ2C宙港管理日誌・旅立つ船たち

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撤退期限2300日前

このたびの植民者移転で、私――SQ2Cは宙港業務の統括をまかされた。乗客をさばくのはもちろん、輸送船の発着管理も担当範囲である。私の手に余る案件が発生したときはSQ1が判断することになっている。

輸送船に対するサービスは一般的な推進剤や消耗品の補給、簡単な修繕ぐらいで、本格的な修理や改装が必要な場合は船団基地に帰って行うことになっていた。だから船に関してはそれほど困難な業務はなかろうと思っていたのだが。

問題は――輸送船は久しぶりに起こされた老植民船が多かったということである。 植民世界拡大が一段落しつつある昨今、大船団で植民者を運ぶという事業は減少しており、船たちはしばらく休眠させられていたようだ。もちろん船体の整備は基準どおりにすませて回航されてきている。

乗員には人間の船長と乗務員、船付きの補助ロボットもいるのだが、かれらとの意思疎通は船にとってまどろっこしく感じているらしい。私のようなコミュニケーションの取れる存在を「発見」した船たちはありとあらゆる要望を寄せてくる。

「係留ポートの座り心地が悪い。昔の宙港はもっと丁寧だった」
「突貫工事で拡張したのでしかたないんですよ。追加の資材が必要ならあるもので対応します」

「となりの船と相性が悪いから順番を変えてくれ」
「もうすぐ出港なんですから我慢してください。次に戻って来たとき配慮しますから」

「推進剤は他の種類のがいいんだが。不味い」
「うちには連邦標準のしかないんです。そちらの技術者に頼んでエンジンを調整してもらえませんか」

「積荷が偏っていて不愉快だ」
「補助ロボットに直させればいいでしょう。メッセージを送っておきます」

「護衛の連邦軍がうるさい」
連邦軍については司政機構の管轄外です。なんともなりません」

……知らんがな。業務効率化のために船と補助ロボットは私や主な部下と通信できるようにしてあるのだが、使い方を完全に間違っている。

「往時、新しい植民世界に向かう宙港はそりゃあにぎやかなものだった。船もひっきりなしに発着してて忙しくて……ところであんたたち役人はずっとこの惑星から離れられないのかい」
「そのようにプログラムされていますからね」
「わたしら船にとっては考えられない条件だな。じゃ、お達者で」

SQ1をわずらわせるほどでもない要望は久しぶりに起こされて話し相手がほしいだけなのかもしれない。私も適当にやり過ごすことにする。

初の出港準備を見守る総司令と総事務長、船長たちと司政官。かれら人間が船たちの言葉を直接聞くことはない。これから長いプロジェクトがはじまる。

「そろそろ時間ですよ」
司政官機にも呼ばれている。SQ2Aが伝令に行ったようだ。こちらも忙しくなりそうである。

−−−−
SQ2Cも大変だな、と宙港のシーンを読み返して思ったのでした。個人的にしゃべる船が好きなのだが、人間に対してしゃべる船なのかは不明。初期から司政官機や車も一種のロボットでお互い会話してたので(「炎と花びら」)、もっと大掛かりな宇宙船もロボットに対してはしゃべるよね、と思っている。

植民拡大が停滞して司政官制度が始まったのだから、植民船はしばらく使われてなかったのでは、と想像。あのケチな連邦が新造船をよこすわけがない。

地図見直したら司政庁は子午線と赤道の交差するところで、宙港はその付近なので赤道に近い打ち上げ有利な配置ということになるのか。

ところでSQ2Cって他の話にあまり出てこない?SQ2D以下は貸し出されたりするけど。SQ2A,Bは司政官付きと庁舎内担当なのだからSQ2Cは実質外回りのトップなのでは?

(初稿:2020/02/12)