SQ1日誌 蛇足・ラクザーン残日録
○月×日
残務整理も終わり、司政官はとりあえず15星系に帰任することになった。私の裁量で、宙港で船に乗り込む瞬間までを任期としている。
公務室のデスクを片付け終わった司政官が言う。
「きみ、やっぱり私といっしょに来ないか?」
「それは不可能です」
そういうセリフはあの海洋研究員に言いなはれ。
私はこの惑星に最適化されており、他の場所に移設することはできない。部下たちも私のコントロール下になければ能力を発揮できないのだ。そもそも連邦からの「ロボットは放棄する」という命令には逆らえない。初めからわかっていたことだ。
「……だろうね。ずいぶん世話になった。ありがとう」
「おつかれさまでした」
司政官は立ち上がってから公務室をひととおり眺めた。
「さよなら、初めてのSQ1」
「ほな、お元気で。私の最後の司政官」
こうして私たちは別れた。もう決して会うことはない人間と。
さて――これからどないして過ごしましょか。
おしまい。
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大阪弁参考資料:田辺聖子『おせいさんの落語』
(結局あんまり使えなかったけど)書き言葉としての大阪弁の参考に。1971~1974年ごろの初出なので1976年から連載の本作とほぼ同年代としてよかろう、というのは後付けでたまたま手元に電子版があったから。大阪弁搭載のロボットネタもあるし。もう連邦公用語のひとつは大阪弁ということで。
この話、ロボットの立場から考えると最初から最後が約束されているという。『引き潮のとき』で増えてるという閉鎖された司政庁ってロボットはそのままなのかな?
ところでこのSQシリーズの祖先は「表と裏」の技術将校ワキタ少尉が設計したことに私の中ではなっている。自分が滅亡すると知っていても目的を果たすわれわれの方が人間より幸せ、という人工知能の本音を聞いた唯一の人間かもしれない。宇宙空軍はのちに発展して連邦軍になったとさ。
(初稿:2020/02/12)